バランス能力と身体機能の関連性

投稿日時: 2010年11月30日

バランス能力と身体機能の関連性
―高齢者と若年者の比較と運動介入から―

医療法人 慈圭会 八反丸病院  
中村 裕樹 五十峯 淳一 竹内 明禅 竹内 直人 出水 孝明 斉野 仁 
有馬 淳二 早田 善幸 繁昌 教子 三ヶ尻 祐太 高智穂 弥与 
八反丸 健二(MD)
【key word】バランス評価 高齢者 運動介入

【目的】
加齢に伴う身体機能の低下は周知の事実である。わずかな機能低下は、日常生活に支障を来さなければ問題とならないが、一線を越えたとき特に高齢者では複合 的な障害を引き起こす可能性がある。初めのうちは立ち上がり・片脚立位保持能力といった筋力やバランス能力の低下が問題となり、徐々に移動能力の低下と進 展し生活上での転倒リスクを増大させる。その為、バランス能力と身体機能への理学療法の介入は重要となり、老化・転倒予防の課題と考える。
今回我々は、高齢者と若年者のバランス能力と身体機能を評価比較し、さらに運動指導を行いその効果を検証し若干知見を得たので報告する。

【方法】
対象は、転倒の経験がない当院外来通院中の独歩可能な患者32名(男性11名・女性21名、平均年齢74.1±6.1歳、下肢疾患7名・脊椎疾患24名・ 上肢疾患1名)と健常若年者31名(男性20名・女性11名、平均年齢26.8±4.4歳)とした。本研究に際し、被験者に対して研究趣旨を説明し同意を 得た後に測定を行った。測定項目は、下肢可動域、握力、開眼片脚立位保持時間、5回連続椅子からの立ち上がり動作時間、起立安定域テスト、Reach  Test(RT)としてFunctional Reach Test(FRT)・Lateral Reach Test(LRT)とした。可動域以外は2 回計測後その平均値を用いた。起立安定域テストとしては、床反力計を用い前後・左右方向への随意的最大重心移動範囲を測定するクロステスト(CT)を実施 し、最大足圧中心変位(COP)と矩形面積(RA)を測定した。FRTはDuncanらのスライド法に準じて測定し、LRTも同様に左右それぞれ測定し た。転倒に対する不安の有無についても質問した。統計解析は若年者群と高齢者群をスチューデントのt検定を使用し比較検討し、さらに高齢者群の各測定項目 をピアソンの相関係数検定により関連性を求めた。次に、高齢者に対し運動介入として片脚立位保持・椅子からの立ち上がり動作・CTを指導し2週間後に再度 測定を行なえた23名(男性8名・女性15名)に対し対応のあるt検定を用い比較検討した。有意水準はp<0.05とした。

【結果】
高齢者と若年者の比較において、下肢可動域については股関節外転において有意差があり(p<0.05)、膝関節屈・伸展(p<0.01)及び 足関節底・背屈でも有意差を認めた(p<0.05)。5回連続椅子からの立ち上がり動作時間では、両者間で約2倍の開きがあった。そしてCOP、 RA、FRT、LRTでも有意差を認めた(p<0.01)。X軸及びY軸COPにおいて若年性と比べX軸方向で57%、Y軸方向で52%と両方向で 高齢者の重心移動範囲の減少を認めた。開眼片脚立位保持時間は平均25.4秒であった。また、高齢者群においてCOPとRTおよびFRTとLRTの関連性 は次の通りだった。X軸COPとFRTは右r=0.61・左r=0.73、Y軸COPとLRTは右r=0.59・左r=0.45、FRTとLRTは右 r=0.68・左r=0.66と有意な相関を認めた。運動介入については、5回連続椅子からの立ち上がり動作時間・Y軸COP・RA・LRTに有意差を認 めた。転倒に対する不安があった者は3名(9%)であった。

【考察】
身体機能の経年変化として、Funatoらは、筋力は20 歳代をピークに徐々に減少し80歳代では20歳代の50%以下になると報告している。5回連続椅子からの立ち上がり動作時間の結果からも臨床上でも筋力判 定の指標として有用と考えられる。立ち上がり動作時間では、14.5秒が転倒リスクの判定に有用であるとの報告があり今回のデータでは10.3±3.1秒 となりその範囲内であった。対象者は転倒に対する不安はないものの身体機能としては転倒の危険性をはらんでいるものと考えられ、注意を促す必要がある。さ らに下肢可動性の狭小は、筋力を十分に発揮する上での阻害因子となる可能性があるため柔軟性の確保は重要と考える。また、静的バランス評価として開眼片脚 立位保持時間を動的バランス評価としてCT及びRTを測定し、有意な相関を認めた。FRTとLRTの関連性についてBenjaminらは相関があったとし ており、本研究からも同様の結果になり更にはCTについても関係性があった。今後は、転倒経験者や転倒により骨折あるいは手術をした患者を対象とした調査 を行ない機能評価判定に用いたいと考える。運動介入については、筋力と左右方向へのバランス改善に効果が認められ、側方安定性には有効であることが示唆さ れた。しかし、今回の指導としては期間についてのみであり、運動内容や頻度および運動量などに更なる検討が必要と考える。


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